南郷アートプロジェクト

中屋敷法仁演劇公演「くじらむら」

会 期

海がない村の、くじらの物語

劇団「柿喰う客」主宰の中屋敷法仁(十和田市出身)を演出・脚本に迎え、八戸市内外の出演者とともに創り上げた、かつて捕鯨漁従事者が多く「くじらの村」と呼ばれていた地域の歴史をテーマとした新作演劇作品。

フライヤーDL


山に囲まれながら、かつて「くじらの村」と呼ばれた南郷。米があまり獲れない地域だったことから、村では昭和12年(1937年)から捕鯨漁への出稼ぎを推奨し、多くの若者が南氷洋での捕鯨漁に従事した。


作品をつくるにあたり、実際に捕鯨漁に従事していた方からお話を伺ったが、船上での仕事や生活は楽なものではなかったように思う。しかし、また乗りたいかとの問いに「もう一度乗りたい」と力強く答えていたのが印象的だった。広い世界に繰り出せる期待感なのか、「3航海で家が建つ」といわれた羽振りのよさなのか。人々を惹きつけた理由は様々だが、捕鯨漁には実際に乗った者だけに分かる魅力があるのだろう。


演じたのは10代~70代までの一般公募で集まった14名である。演劇経験はないけれど、家族が捕鯨漁に行っていたことから興味を持ち、参加を決めたという方もいた。ワークショップを重ねた出演者たちは、クジラに、人間に、時には捕鯨船にと、身体一つで多彩な表現を繰り出した。


主人公のオスクジラは、捕鯨船に捕まった妻(身重のメスクジラ)を探すため、海の魔女に人間にしてもらい船に乗り込む。願いもむなしく、メスクジラは助からなかったが、南郷村出身の若者が不憫に思い、お腹にいた赤ちゃんクジラの亡骸を故郷に持ち帰る。彼を追って村を訪れたオスクジラは、乗組員やその家族との交流を通じ、たくましく生きる人間の暮らしに触れ、自分も家族の待つ海へと帰っていく。


劇中に登場したクジラの胎児のホルマリン漬けは、現在も南郷の「山の楽校」に展示されている。クジラの目線から描かれつつも、南郷に残る「くじらの村」のエピソードが随所にちりばめられた作品は、ファンタジーと現実が交じり合った「くじらむら」を私たちに見せてくれた。


公演後、青森県野辺地町に住む観客の方が、有志で捕鯨の記録を残すためのDVD制作を始めたと連絡をくれた。企画が南郷だけにとどまらず、他の地域へも広がったことはうれしい出来事であった。


この企画を通じて触れた、捕鯨漁に携わっていた方々の記憶や思い。家族を大切にし、遠い海の上で懸命に働いた若者たちのことを、私たちは忘れてはならない。

概要

名 称
中屋敷法仁演劇公演「くじらむら」
日 程
2018年10月27日(土)17:30開演(18:00開場)、10月28日(日)13:30開演(13:00開場)
場 所
八戸市南郷文化ホール
作・演出
中屋敷法仁(演出家・劇作家・柿喰う客代表)
出演
玉置玲央(柿喰う客)、本田けい(青年団)、郁、居舘聡子、岩崎野花、奥美帆、桜田克海、佐々木陽菜乃、澤田馨樹、髙橋響子、竹井貞子、田中暁子、野沢亜由美、長谷川たくや、長谷川華、壬生覚
料金
一般 前売1500円 当日2000円/高校生以下無料(要整理券) 
※全席自由
アフタートーク
公演終業後にアフタートークを開催。
出演:中屋敷法仁、赤嶺淳(一橋大学大学院社会学研究科教授)
助成
一般財団法人自治総合センター

プロフィール

演出家・劇作家・柿喰う客代表

中屋敷法仁

青森県出身。高校在学中に発表した『贋作マクベス』にて、第49回全国高等学校演劇大会・最優秀創作脚本賞を受賞。青山学院大学在学中に「柿喰う客」を旗揚げ、06年に劇団化。旗揚げ以降、全ての作品の作・演出を手掛ける。 劇団公演では本公演の他に“こどもと観る演劇プロジェクト”や女優のみによるシェイクスピアの上演企画“女体シェイクスピア”なども手掛ける一方、近年では、外部プロデュース作品も多数演出。
劇団公演以外の主な作品に舞台『黒子のバスケ』OVER-DRIVE、パルコ・プロデュース『サクラパパオー』、Dステ20th『柔道少年』、『フランダースの負け犬』、『赤鬼』、『飛龍伝』など。
http://kaki-kuu-kyaku.com/

一橋大学大学院社会学研究科教授

赤嶺淳

1967(昭和 42)年、大分県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科教授。専 門は食生活誌学。高度成長期前後の食生活の変化に着目して、地域社会と地球 環境の多様性をあきらかにしてきた。おもな著作に『ナマコを歩く̶̶現場か ら考える生物多様性と文化多様性』(新泉社、2010 年)や『鯨を生きる̶̶ 鯨人の個人史と鯨食の同時代史』(吉川弘文館、2017 年)などがある。現在は、 マツタケを追い、中国と米国などで調査中。

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